精神疾患があると、なぜ無罪になることがあるのか?〜心神喪失の基本を解説

こんにちは、たつみです。
やや物騒なタイトルではありますが、今回からはこれまでと少し趣向をかえて、「精神疾患と司法」についてお話していこうかなと思います。今回の記事では「心神喪失」についてまとめていきます。

もっと率直に言うならば

精神科の病気があると、なぜ無罪になることがあるのか?

というお話です。

この記事を書いているのは2025年12月。
今年は芸能人の方がスピード違反などで逮捕されたものの、のちに精神科の病気があったことが判明し、話題になりました。
それだけでなく、「京アニの放火事件」など大きな事件の報道でも「精神鑑定」という言葉が必ずと言っていいほど登場します。

そのたびに、ネットではとある議論が生まれますよね。

精神疾患だったら、なぜ無罪になるんだ!? おかしいだろう!!

というものです。

そこで今回は、精神疾患が司法の中でどのように扱われているのかを、出来るだけ事実ベースで整理して書いていこうかと思います。
僕個人の意見については、すべての記事を書き終えてから改めてまとめようと考えています。

僕は司法の専門家ではありません。
いち精神科医として理解している範囲で記載しております。
細かい法律用語や内容の理解について不正確な部分があるかもしれません。
参考程度に読んでいただければ幸いです。

目次

心神喪失という言葉を本当にわかってます?

「心神喪失」とはよく報道で言われますが、皆さんは言葉の意味を正しく理解していますか?

えーと、精神科の病気で頭がオカシイ状態のことだろ

かなりストレートな表現ではありますが、
こう思っている方は実際多いのではないかと思います。

それを責めるつもりはありません。
というか自分も「よくわかんないけど精神症状が重い状態」という風に思っていました。
別にこの考え方自体は間違っていないんですけどね。

心神喪失だけではないんです

大審院判決というものがあり、これには「心神喪失」と「心神耗弱」について以下のように書かれています。

心神喪失者及び心神耗弱者とは、

いずれも精神障害の状態にあるものをいい、両者の際は、その障害程度の強弱に在り。
而して前者は、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力なくまたはこの弁識に従って行動する能力なき状態を指し、後者は、精神の障害いまだ上述の能力を欠如する程度に達せざるも、その能力著しく減退せる状態をいう。

簡単に言い換えると

心神喪失と心神耗弱の違いは精神症状の重さ
心神喪失ものごとの良し悪しを理解する能力や、その理解によって行動することが病気のせいで出来ない。
心神耗弱→心神喪失ほどではないけど、その能力が病気のせいで著しく落ちている。

ということを言っています。
以前から僕はブログで、

精神科の病気の怖さとは、病気のせいでその人本来の判断能力を損なわせて、
普段ではしないような行動(自殺、暴力)をさせること

とお話ししていますが、これを司法に寄せて書くと上のようになるのかなと思います。

心神喪失と心神耗弱の違いって何?

いまいち心神喪失と心神耗弱の違いがわからないんだけど

と思われた方はいらっしゃるのではないでしょうか。
自分が参考にしている本では次のように書かれていました。

犯罪の原因のほとんどが精神疾患のせいで起きている→心神喪失
他の原因もあるけど、、メインの理由は精神疾患が原因→心神耗弱

もちろん、これは絶対的な基準ではありません。
精神科自体が症状の評価に曖昧さを含むことがありますし、法律の世界では「どう解釈するか」も重要です。
白黒ハッキリつけられるものではないのだと思います。

なぜ心神喪失は、無罪なのか

ここが本題でしょうし、多くの方が疑問に感じているところではないかと思います。

日本の刑法では心神喪失者と心神耗弱者については以下のように定められています。

刑法39条

心神喪失者の行為は罰しない

心神耗弱者の行為はその刑を減刑する

これは平成7年(1995年)に改正されたものです。大元は明治40年(1907年)のものであるようですが、その時からこれに関しては殆ど変更はないようです。

これって日本だけじゃないのか?

と、お思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、上記に関していえば、西洋の規定を参考に作られており、別に日本独自の考え方というわけではありません。

もし気になる方は「マクノートン・ルール」や「ダーラムルール」という言葉がありますので、調べてみてください。似たような内容が書かれています。

精神疾患があれば無罪なのか

心神喪失、心神耗弱について知っていくと次に感じる疑問はこれですね。

統合失調症の方は犯罪をしても無罪になるのか?

結論からいうと、そういうわけではありません。

これにもちゃんと判決があって

最高裁判所第三小法廷決定要旨(1984年)

被告人が犯行当時精神分裂病(※統合失調症のことです)に罹患していたからといって、
そのことだけで直ちに被告人が心神喪失の状態にあったとされるものではなく
その責任能力の有無・程度は被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、
犯行の動機・態様等を総合して判定すべきである。

という風に書かれています。
つまり、あくまで犯行当時の精神状態が重要ということです。

統合失調症をお持ちの方、広く言えば精神科の病気をお持ちの方だからといっても
犯行当時に精神症状がない場合は減刑されることはありません。

つまり、「精神疾患=無罪」ではありません。

おわりに

今回は心神喪失の基本をまとめました。

言葉はよく聞くけれど、実際にどんな意味で、どう使われているかまでは知らなかった、という方も多いのではないでしょうか。

ただ、これだけではまだ一つ大きな疑問が残ります。

「じゃあ、この判断って誰がしてるの?」

ここから先は、次の記事でおはなししていきますので、良ければそちらも読んでいただけますと幸いです。

ではまた。

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