こんにちは、たつみです。
前回の記事では、「双極性障害とはどんな病気なのか?」というテーマで、うつ病との違いや、気分の波についてご説明しました。
今回はそれをふまえて、「躁状態って実際どんな感じなのか?」というところを、少しエピソードを交えながらお話ししてみたいと思います。
躁状態のおさらい
まずは前回の記事のおさらいからしましょう。詳しく知りたい方はリンクから記事をお読みください。
躁状態は“いろんなものが亢進している”状態
双極性障害の「躁状態」とは、一言で言うと「エネルギーが亢進している」状態です。
・睡眠時間が少なくても元気に動き回れる
・自分はなんでもできる気がする
・話すスピードが速く、話題も次々変わる
・お金の使い方が大胆になる
・人との距離感が近くなりすぎる
これがよくある症状ですね。
また躁状態はテンションが高くなりますが、
「ニコニコと明るいタイプ」と「高圧的で怒りっぽいタイプ」の2種類に分かれます。
たつみが出会った躁状態の患者さんとのお話
躁状態はイメージがつきにくいと思うので、今回はたつみが経験した患者さんとのやり取りを皆さんにご紹介いたします。
ニコニコタイプのとの一例
以前担当した患者さんの中で、いつもニコニコと陽気な方がいらっしゃいました。
今回が初めての精神科入院で、旦那さんと患者さんのお母さんに連れられて当院にいらっしゃいました。
妊娠していたので、出産までカバーできるように当時総合病院に勤務していた自分が主治医になりました。

先生、こんにちは〜
あははは、まゆ(仮名)ねえ、今から入院するの〜?
初っ端からこのテンションですね。
大体普段の診察はこんな感じです。



まゆねえ、退院したらパン屋さんやるの。
うまくいく気がするんだ〜。



あれ?今勤めてるのパン屋さんでしたっけ?



ううん。ケータイショップだよ。



まだ躁状態は続いてるな〜
これが双極性障害の「アイデアが止まらない状態」+「根拠ない自信」の状態ですね。
治療はまだまだ必要な状態でしたが、この方は急遽退院することになりました。
良くなったと感じたご家族が退院を希望されたからです。



まだまだ治療が必要ですよ。
お腹に赤ちゃんも居ますし、もう少し慎重に診させていただけませんか?



いや、もう大丈夫です。
お家でゆっくりさせてあげたいので退院します。
ということで退院になりました。



大丈夫かなあ。
と思いながら次の外来を待っていました。
そして退院から1週間して家族から電話がかかってきました。



やっぱり入院させてください。
もう大変なんです。
話を聞くと、退院して数日後には患者さん単身で不動産に行き、パン屋をやるための建物を借りたとのこと。



え、不動産借りたんですか⁉️



かりたよ〜。
パン屋さんやるって言ってたじゃん。



いや、言ってたけど…
てか不動産屋も貸すなよ。
これが躁状態の怖さです。「突拍子のないアイデア」と「異常なまでの行動力」が合わさると、このような結果になります。この方の場合は幸い解約することができたため特に金銭的被害はありませんでした。
ですが、実際は金銭的問題を抱えてしまうことが多いです。ご家族の貯金を使い果たしてしまうこともあります。
これが躁状態の怖さですね。
威圧的になる躁状態
前の方はニコニコしている方だったので、接していてこちらの気持ちが乱れることはないんですよね。
精神科のベテランの先生の中にはニコニコしているタイプの躁状態の人を「友達になりたい方」と表現しています。
一方この威圧的な躁状態になる方は、流石に対応に慣れている精神科医でも心が乱れます。
この方も自分が対応した方ですね。といっても主治医としてではなく、外科の先生からのご相談でした。
体の病気で外科の病棟に入院中だが、明らかに様子がおかしい。
双極性障害として他の病院で治療を受けている。
治療にも支障が出ておりどうしたらよいか?
というお話でした。
というわけで診察に行くと



田中さん(仮名)。
初めまして、精神科のたつみです。



遅いわ‼️
この俺を待たせるとは何事か。



いや、あのですね…



なんだお前は、太った体で来やがって。
まあいい今から俺が話すから良く聞け。
ビジネスの話があるんだ。
ローランドと一緒に大きな事業を立ち上げる。



はあ、えーと…。



お前は余計な口を挟むな‼️
俺が話しているだろうが‼️
終始このような調子でした。
この方は「突拍子もないアイデア」+「誇大妄想(自分が偉大な存在になったと感じる)」の合わせ技ですね。
ちなみに、躁状態の方は相手を罵倒することがあるのですが、
この悪口は絶妙に相手の嫌がることを言うんですよ。
地味に心にくるというか。
躁状態の方が人間関係を損なうリスクが高いのも、このような理由もあります。
躁状態の怖さ
躁状態が怖い理由の一つは、治療を自己中断してしまう人が多いことです。
躁状態というのは、本人にとっては「最高の自分」なのです。
- 頭の回転が速い
- いろんなアイデアが湧いてくる
- 寝なくても元気
- 気分は爽快
- うつのときの苦しみから解放されている
そういう状態なので、「自分は病気じゃない」と思ってしまうんですね。
病院は「調子が悪い時に行くもの」です。
躁状態の方は「今、調子が良い」と感じているので、受診の必要性を感じなくなってしまいます。
それが自己中断につながります。
躁状態は周りがきつい、抑うつ状態は本人がきつい
よく言われることに、「躁状態は周囲がきつい、抑うつ状態は本人がきつい」というものがあります。
躁状態では、本人は元気いっぱいですが―
- 家族のお金を使い込む
- 他人を罵倒する
- 仕事や人間関係を壊してしまう
といった行動がみられ、周囲の人たちが巻き込まれて疲弊することが多いです。
一方で、抑うつ状態の時は、
- 深い悲しみや不安に苦しむ
- 意欲が出ない
- 自分を責めてしまう
といったように、本人の内面が強く苦しみます。
躁状態では周囲の人がきつく、抑うつ状態では本人がつらい、という言葉はこの状態を指しています。
けれど最終的には、やっぱり「本人」がいちばん苦しい
でも、これは“あくまでその瞬間”の話です。
長期的に見れば、躁状態であっても、抑うつ状態であっても、最終的に一番苦しいのはご本人自身であることがほとんどです。
躁状態によって人間関係や信頼を失ってしまったとき。
抑うつ状態の中で、自分の存在意義を見失ってしまったとき。
どちらも、ご本人が一番深く傷つくことになります。
「軽い躁状態で安定する」ことが理想だけど…
実は、本人も周囲も一番平和に過ごせるのは「軽い躁状態」のときなんです。
元気で、前向きで、活動的。少しお金遣いは荒いかもしれませんが、問題になるほどではない。
そんな「ちょうどいいテンション」で過ごせたらどんなに良いかと思います。
でも―その“ちょうどよさ”を保つのが本当に難しい。
実感として、多くの方は軽い抑うつ状態でコントロールされていることが多いです。
というのも、軽躁状態はそのまま躁転しやすく、その一瞬の躁転で取り返しのつかないことになりうるからです。
さらに、薬の選択肢としても躁状態を抑える薬は豊富ですが、抑うつ状態を改善する薬は少ないという現実もあります。
軽躁状態の治療の悲哀
双極性障害との付き合いの長い患者さんは、軽躁状態の時になると自己申告してくださいます。



最近なんだかテンションが高いんですよ。
頭の回転も早くて、躁状態かもしれません。



そうですか、もう少し様子を見ていきましょう。
もしまた上がるようであればお薬を少し調整してみましょうね。



はい…
病気と付き合いの長い方は、躁状態になった時の自分の危うさをご存知なので、治療も納得はしています。
ただ、やはりそのときは少し複雑な表情をされます。
「調子の良い自分を失う辛さ」と「抑うつ状態の気持ちの落ち込みをまた経験する怖さ」を感じているからでしょう。
この状態で維持してくれと願わずにはいられません。
さいごに
双極性障害は、治療が本当に難しい病気です。
気分の波があることに加え、ご本人が病気と気づきにくいという側面もあるため、周囲の理解と根気強い支援が必要になります。
女優さんの一件でもあるように、双極性障害は患者さんを孤立させてしまう可能性のある病気です。
もちろん周りの方も大変だとは思います。ですが、周りの方に「これは病気なんだ」と理解していただいて、病院の受診につながってくれたらと思いこの記事を書きました。
参考になれば幸いです。
次回は、双極性障害の治療についてもお話しできたらと思っています。
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