延命治療とは?代表的な医療とその役割を精神科医が解説

こんにちは、たつみです。

前回の記事では、「高齢者の延命治療」について、精神科医としての私の考えをお話ししました。

今回は、「延命治療とは具体的にどのような医療なのか」について、もう少し掘り下げてご説明したいと思います。

少し生々しい話も含まれますが、延命治療がどのような医療かを知っていただくことで、今後の参考になればと思っています。

※なお、今回の内容は精神科病院で働く医師の立場から見た延命治療に基づいています。ご了承ください。

目次

延命治療はどんなものがあるのか

延命治療とは、命をできるだけ長く保つことを目的とした医療のことであることを前回の記事でお伝えしました。

基本的には

  • 栄養や水分を補う
  • 酸素や止まった肺を動かす
  • 止まった心臓を動かす、サポートする

といった生命維持に関わる機能の一部、もしくはすべてを代替するような治療になります。

ここでは延命治療で用いられる代表的なものをいくつかご紹介します。

● 胃瘻(いろう)

口から食事ができなくなったときに、お腹に穴を開けて直接胃に栄養を入れる方法です。

  • 【メリット】:栄養を安定して届けられる
  • 【デメリット】:手術が必要であるので胃瘻の増設には負担が伴います。

手術といっても、医療ドラマのようないわゆる手術ではなく、内視鏡で行われます。消化器内科の先生がいらっしゃる病院でないとできないので、精神科病院入院中のかたは一旦別の病院に受診や転院が必要です。

● 経管栄養

鼻からチューブを通し、胃に栄養を送る方法です。

【メリット】:鼻から管を通すだけなので、手術はいりません。
【デメリット】:管の不快感があること、認知症の方の場合自分で引き抜く可能性が高いこと。

こちらは内視鏡は不要なので、転院はせずに精神科病院に居たまま行われます。

● 中心静脈栄養(IVH)

腕ではなく太い静脈にカテーテルを入れて、そこから栄養や水分を体内に送る方法です。

  • 【メリット】:口や胃を使えないときでも栄養が取れる
  • 【デメリット】:感染リスクや管理の難しさがある

精神科病院では管理が難しいのでこちらの方法が選択されることはほとんどありません。

総合病院や内科の病院で行われることがあります。

● 人工呼吸器の装着

呼吸がうまくできなくなったときに、機械で呼吸を助ける方法です。

  • 【メリット】:自力での呼吸ができなくなっても命を保つことができる。
  • 【デメリット】:装着中は麻酔をかけられ意識がないことが多く、苦痛を伴う場合も

延命治療と聞いて真っ先に思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

● 心肺蘇生(CPR)

心臓や呼吸が止まったときに、心臓マッサージや電気ショックで蘇生を試みる方法です。

  • 【メリット】:一時的に命をつなぐことができる可能性がある
  • 【デメリット】:胸を強く押すので胸の骨がかなりの確率で骨折する。高齢者の蘇生率・回復率は極めて低い

精神科病院でもCPRは行えますが、そこから先の高度治療が難しいため、多くは救急搬送までの「時間稼ぎ」として行われます。

延命治療の本質は「時間稼ぎ」

「延命治療」自体は悪い治療ではありません。心肺蘇生の最後のところで「時間稼ぎ」という言葉を使いましたが、この時間稼ぎこそが延命治療の本質です。

では何のために時間稼ぎをするのか。

それは「より良い治療を受けられるまで、あるいは機能が回復するまで」です。

例えば、臓器の移植を待つ患者さんの場合、延命治療をする意義は大きいと言えます。無事移植をすることができればそのまま回復する可能性が大きいのですから。

例えば、嚥下機能が一時的に落ちてしまっている方が胃瘻を使うことには大きな意味があります。
リハビリをする間胃瘻を使うことで、十分な栄養を維持したままリハビリを行うことができるのですから。

つまり何が言いたいか、延命治療とは延命の先にある回復というものを見据えて行われるものなのです。

そしてこれこそが、「意義ある延命治療」と「漫然としたその場しのぎの延命治療」を明確に分ける点です。

認知症の方に対する延命治療の難しさ

特に認知症の方において問題となるのが胃瘻です。

認知症の方は誤嚥性肺炎を繰り返しやすく、栄養状態が低下します。飲みこみの力が落ちていることに加えて、食欲も落ちているため、口から栄養をとることが難しくなるからです。

この時にご家族が「胃瘻を作ってもらえないですか?」と言われることがありますが、

最近では認知症高齢者への胃瘻は基本的に推奨されていません。

最近の研究では、認知症患者に対する胃瘻は延命効果が乏しいという報告が多いからです。

これはデータでもそうですし、現場で接している精神科医としても実感があります。

自分の指導医が以前話してくれたのですが、

たつみ君、認知症の方に胃瘻を作ってもあまり効果がないよ。
まるで脳が食べるということを忘れたかのように胃腸も動かなくなってくるんだよね。
だから胃瘻は慎重に考えなさい。

この言葉は今もずっと心に残っています。

注意:胃瘻自体は悪い治療ではありません

こういう話をすると「胃瘻」=「悪い治療」というイメージを持たれる方が医者の中でもいるのですがそれは違います。

上に挙げた例のように、一時的なサポートとしての胃瘻はとても重要で意義ある治療です。

延命治療はなぜこんなにも言われてしまうのか

延命治療の話を前もってしろとか言われても…
試してみて、やっぱり途中でやめるとかできないの?

たつみ

基本できません
特にどんな形であれ延命ができている方にはその治療を途中でやめることはできません。

効果がなければ治療をやめることはできます。やってもやらなくても同じならやる必要はありませんよね。

ただ、例えば人工呼吸器に繋がれて命が繋がった場合は途中でやめることはできません。

・・・・・・

人工呼吸器に繋がったまま、眠ったままでかわいそうです。
もう呼吸器を止めて楽にしてあげてください。

たつみ

残念ながらそれはできません。
なぜなら殺人になってしまうからです。

これこそが延命治療の難しいところです。

延命治療には“途中下車”はありません

一度始めたら、亡くなるまで続けるしかないのです。

最後に

今回は、延命治療にはどのようなものがあるのか、
そして、その背景にある現実と課題についてお話ししました。

次回は、延命治療におけるさまざまな意見や、私たつみの意見等を掘り下げていければと思います。

皆さんは、延命治療についてどう感じましたか?

よろしければ、コメントなどでご意見をいただけると嬉しいです。

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