
こんにちは、たつみです。
今回からは認知症についてお話ししていこうかなと思います。精神科病院でも精神科クリニックでも、やっぱり多いのはうつ病と認知症です。うつ病については今までお話をしてきたので、今回からは認知症についてお話しようと思います。
まず最初に、『認知症で困ったとき、どこに受診すればよいのか?』という点についてお話ししたいと思います。
「あれ、私、認知症かも?」と思った時、あるいはご家族が「お父さん、認知症かしら?」と感じた時にどこを受診すしたら良いのか。
あるいは、どこを頼るべきかと言い換えてもいいかもしれません。
これは意外と知られていなくて、医者でもわかってない方がいらっしゃいます。
今回の記事でどこを受診するべきか、どこを頼るべきか皆さんのお役に立てば幸いです。
どこを受診した方がよい?
まず最初に言っておくと、自分は精神科の医者ですので、もしかしたら精神科贔屓の話になってしまうかもしれません。あらかじめその点だけは申し上げておきます。極力そうならないように、お話させていただくつもりです。
正直にいうと「最初の受診は、精神科でも神経内科でもどっちでもいい」です。
ただ、認知症の状況に応じてどちらの科がより適しているかということはあるのです。
簡単にいうと
認知症と正確に診断をしてほしい→神経内科
認知症の症状をどうにかしてほしい→精神科
自分はこれが一番わかりやすい、受診先の考え方かなと思っています。
ただ勘違いしてほしくはないのですが、神経内科の先生も認知症の症状に対応することは可能ですし、僕ら精神科の医師も認知症と診断することは可能です。
ただ、対応できる範囲や専門性の深さに違いがあるのです。
神経内科は診断により特化しており、精神科は認知症による困りごとへの対応により特化しているという違いです。(この困りごとというのが肝だと思っています。)
今回は認知症の症状に関しては深くは取り扱いませんが、軽い例を交えてご説明しようと思います。
【診断重視なら】こんなときは神経内科へ


父さん、最近なんだか、ものをなくすことが多い気がする
趣味の盆栽もしなくなったし…なんか病気かな?
大体、最初に感じる違和感はこんな感じでしょうか。
ご家族としては、「なんだか前と比べてちょっと変だな?」と違和感を感じる程度です。
この状態であると神経内科の受診の方が良いかもしれません。
なぜか?それは…
認知症以外の病気だったら、治せるかもしれないからです。
内科の病気でも、認知症のような物忘れを起こすことがあります。
例えば…
- 甲状腺機能低下症(橋本病など)
- 副甲状腺機能異常(高カルシウム血症、低カルシウム血症)
- 肝性脳症(肝不全による)
- 腎性脳症(尿毒症)
- 低ナトリウム血症
- 高カルシウム血症
- ビタミンB1欠乏(ウェルニッケ脳症)
- ビタミンB12欠乏(悪性貧血など)
- 糖尿病による低血糖・高血糖状態
- 脳炎(単純ヘルペス脳炎など)
- 髄膜炎
- HIV関連認知機能障害
- 梅毒(進行麻痺)
- クロイツフェルト・ヤコブ病(プリオン病)
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- サルコイドーシス
- 橋本脳症(自己免疫性脳症)
- 脳腫瘍(特に前頭葉・側頭葉などの腫瘍)
- 正常圧水頭症
- 慢性硬膜下血腫
- 多発性硬化症…….などなど
….めちゃくちゃありますね。神経内科の先生はこれらの疾患の鑑別・適切な治療に繋げることに秀でています。
そしてもし、体の病気のせいであれば、その病気を治療すれば良くなる可能性もあるのです。



体の病気が隠れているかもしれないのね。
でも体の病気かも?って家族が疑わないといけないの?



もちろん、ご家族がそこを疑う必要はありません
ですが、受診の時に以下の情報を教えてくれれば、他の病気を見つけやすくなります。
以下の点は受診の時に話してくれるとありがたいですね。
- ここ数ヶ月にこけていないか、特に頭を打ってないか
- 受診する方のご家族に認知症の方はいないか?
- 他の病院で処方されているお薬(お薬手帳の持参でOKです)
- 糖尿病はないか、その他ご病気はないか
- 最近の食事摂取量
これらは、精神科であれ神経内科であれ受診の際にお伝え頂ければ、他の病気を見つけやすくなります。
そして、体の病気が隠れていた場合、神経内科はスムーズに治療に繋げることができ、その点は神経内科の明確な強みです。
まとめると、



なんだか物忘れが増えてて、認知症かもしれない
別に困ってるわけではないけど、一度病院で診てもらった方が
いいかしら
みたいな「認知症かもしれないけど、今ものすごく困っているわけではない。でも原因は知りたい」みたいな時は神経内科の方が良いですね。
【症状の対応が必要なら】こんなときは精神科へ
精神科の方が良いかもという場合は、認知症の症状で困っている場合です。





父さん、どこに行ったんだ。近くのコンビニに行くって言ったのに
全然帰ってこない
こんな感じで認知症が進行してくると、いろんな問題が起こってきます。
- 徘徊を繰り返して、家に帰れず警察に保護される
- 怒りっぽくなって、ご家族に対して暴力を振るう
- ご飯を食べなくなる
精神科はこれらの症状に対しての対応ができます。



対応?治療じゃないの?



進行した認知症は現代医学では治すことはできません。
僕らができることは、認知症そのものを治すのではなく
それに伴う症状を和らげること、ご家族の負担を減らすことです
では、どのように対応するか
それは以前精神科の治療の三本柱という記事で書いたように、3本の柱にそって治療をします。
具体的には
薬物療法
- 精神科の薬を使用して、気分の波を抑えること
環境調整
- 介護保険の申請
- 入院治療
- 症状に応じて老人ホームへの入所の調整
- 日中のデイケア等の調整
というようなことをします。(認知症の方ではあまり心理療法は重視されません)
認知症の症状に対しての薬物療法や環境調整に関しては、精神科の医師の方が慣れていますので、精神科の受診をお勧めします。
特に精神科の場合は「数ヶ月単位の長期的な入院ができる」ということが明確な強みですね。福祉サービスの調整はかなり時間がかかります。その間自宅でご家族がつきっきりというのは現実的に難しいので、入院することでご家族の負担を和らげることができます。
まとめると



このままの生活が続くと、家族も共倒れしてしまいそう…
どうにかして欲しい。
みたいな、明確な困り事がある場合は精神科が良いと思います。
もちろん出来ることには限界がありますが…
まとめ
いかがでしょうか。どちらの科を受診した方が良いか、なんとなくイメージはつきましたでしょうか。
ただ、皆さんがこれを読んで、『神経内科を受診してから最後は精神科』みたいなことをする必要は必ずしもありません。
最初に書きましたが、明らかに違和感がある場合は精神科からでも内科に紹介することは全然あります。
神経内科の方がより診断の精度が高いというお話です。
今回の記事を元に神経内科と精神科の認知症治療に対しての立ち位置をなんとなくご理解頂ければ幸いです。
ご不明な点がございましたら是非コメント頂ければと思います。
ではまた。
コメント