精神科の「身体拘束」について〜身体拘束でしか防げないことがある

こんにちは、たつみです。

前回は「隔離」について書きました。
今回はその続きとして、精神科で行われる「身体拘束」について書いていこうと思います。

目次

身体拘束とは何か

身体拘束とは、読んで字のごとく、体の自由な動きを制限する医療行為です。
本人が自分自身や周囲を傷つけてしまう危険があるときに、やむを得ず行われます。

言葉だけだとイメージがつきにくいため、下の画像をみていただけたらと思います。

身体拘束はこのように、拘束帯と呼ばれるベルトを使って体を固定します。

※補足しておくと、身体拘束はすべてがこの形というわけではありません。

体幹(胴体)のみを固定する場合や、
上肢(腕)+体幹のみを拘束する場合など、
必要最小限の範囲で行われることがほとんどです。

これって精神科病院だけ?

これ、私のおじいちゃんが総合病院に入院したときに付けられていた気がする

そう感じた方もいるかもしれません。

実は、総合病院でも似たような行為は行われています
ただし、呼び方が少し違います。

  • 総合病院:抑制
  • 精神科病院:身体拘束

厳密に同じものというわけではありませんが、
イメージとしては、
精神科病院で行われる身体拘束は、抑制よりもさらに強いもの
と思ってもらっても構いません。

どのように使われているかも少し異なります。

総合病院で行われる抑制の多くは、

  • 認知症の高齢者の転倒を防ぐため
  • 点滴やチューブを自分で抜いてしまうことを防ぐため

といった理由によるものです。

一方、精神科病院で身体拘束が行われる最大の目的は、

患者さん自身の自殺や自傷を防ぐこと

ここが大きな違いです。

あとは使用される範囲も異なります

なぜ拘束が必要になるのか

隔離だけじゃだめなの?
拘束って、やりすぎじゃない?

そう思われる方もいると思います。
その感覚は、とても自然なものです。
実際、僕も医学生の頃はそう感じていました。

ただ、実際に精神科医療に関わっていると、
拘束でなければ防げない場面がある、という現実に直面します。

前回の記事でも書きましたが、
隔離は「本人と他者を引き離すため」のものです。

  • 他人への暴力を防ぐ
  • 被害妄想による混乱を落ち着かせる

こうした点では有効ですが、
本人が本人を傷つける行為までは制限できません。

身体拘束とは、

本人が、自分自身の行為によって、
傷や不利益を負ってしまうことを防ぐためのもの

なのです。

実例から考える

ここまで読んでも、まだピンと来ない方も多いと思います。
そこで、実際に起こりうる場面を、
認知症うつ病の例で考えてみたいと思います。

認知症の場合

こと認知症に関して言えばあまり精神科病院と体の病院で使われ方に違いはありません。

認知症の方に対する拘束の多くは、

  • 転倒予防
  • 点滴を自分で抜いてしまうことの予防

が目的です。

認知症の方は、認知機能が低下しているため

  • なぜ点滴をされているのか理解できない
  • 体に何かが付いていることに強い違和感を覚える

そのため、点滴を本当によく抜きます。

点滴を抜いてしまうと、

  • 治療に必要な薬が入らない
  • 脱水がある場合、水分を補うことができない

といった問題が生じます。

さらに高齢者では血管がもろく、
無理に点滴を引き抜かれると、

もともとの血管はボロボロで使えない
でも他に点滴を取れそうな血管もない

→点滴する血管がない!

という、かなり厳しい状況になることもあります。

患者さんが点滴を引き抜くことで、患者さん自身が治療を受けられずに損を受けてしまう。

認知症高齢者の拘束は主にこの観点から行われます。

うつ病の場合(※つらい表現があります)

ここからは、少し具体例になります。
少しゾッとする部分もあるので、苦手な方は読み飛ばしてください。

これは、僕が実際に経験した患者さんですね

重度のうつ病で、ナイフを持ち出して自殺を図ろうとした方がいました。
当然、危険な状態であり、すぐに入院が必要とのことで
私が当時勤務していた病院に緊急入院となりました。

後輩医師が主治医となり、
一旦は拘束をせずに経過を見よう」という判断になりました。
※この判断は、上級医の指示によるものでした。

ある夜、私が当直をしていたとき、
看護師さんに夜中に電話で起こされました。

〇〇さんが大変です‼️
すぐに来てください‼️

たつみ

すぐいきます‼️

すぐにその患者さんの病室に向かいました。

するとその患者さんは、
うつ病による希死念慮や妄想から、自分で自分の眼球を取り出そうとしていたのです。

幸い早く気づくことができ、
完全に損傷する前に止めることができました。
すぐに眼科の先生に相談し、整復してもらい、
視力は失われずに済みました。

それでも、今でもあの光景は忘れられません。
何より、うつ病という病気の怖さを痛感しました。

この患者さんが自分で自分の手で自分の目を抉ろうとする行為を
冷静に考えて欲しいのですが。

そしてこの行為は、

  • 危険物をすべて預かっていても
  • 保護室に入っていても

手が自由に動く限り、実行可能な行為です。

看護師とか医療者がちゃんとみてれば防げたんじゃないの?

これもよくある意見ですね。
正直現実的ではないですし、何より24時間見ていたとしても防ぐのは不可能です‼️

想像してみてください。

目の前の人が突然、自分の目を抉ろうとしたとき、
すぐに反応できるでしょうか。

今回は目を取り出そうとしていたため、手こずっており大丈夫でしたが
これが目に指を突っ込んで潰そうとした場合は?

あるいは、このような行動は1回で終わるという保証はありません

仮に一度止められたとしても、それで終わる保証はありません。
症状の波が来れば、同じ行為を繰り返す可能性があります

拘束でなければ防げない現実

どうでしょうか。

うつ病という病気が持つ恐ろしさ、
そして、拘束でなければ防げない場面があるということを、
少しでも感じていただけたでしょうか。

おわりに

今回は、精神科における身体拘束についてお話ししました。

僕自身、身体拘束を「良いもの」だと思っているわけではありません。

冷静に病状を判断し、必要なときには身体制限を行う。
それが本当の精神科医の姿なのではないかと、僕は考えています

次の記事はここら辺のところも含めて、
自分が身体制限について考えているところを書こうかなと思っています。

ではまた。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次