
こんにちは、たつみです。
今回の記事からは、精神科病院で行われる「身体拘束」と「隔離」についてお話ししていきます。
ちなみに「身体拘束」と「隔離」をまとめて「行動制限」といいます。
これら二つは精神科病院独自の対応であると同時に、
精神科病院に対するイメージの悪さの一因になっているものだと思います。
ただ、非難されやすい物ではあるものの、
実際に身体拘束や隔離がどのようなものなのかは知らない方も案外多いのではないでしょうか。
なぜこのタイミングでこの記事を書いたかと言うと
今までの記事では、「認知症」、「うつ病」、「双極性障害(躁うつ病)」、「統合失調症」について、
それぞれご説明しました。
精神科において、行動制限の対象はだいたいが、これらの疾患の方です。
それもあり、行動制限についてお話するのは良いタイミングかなと思いこのテーマにしました。
※実を言うと、司法の話をする前に書く予定だったのですが、
すっかり忘れてしまっていて、この順番になってしまいました。
今回の記事では、「隔離」についてお話ししていきます。
隔離とは
隔離とは、簡単に言えば
「トイレ以外にほとんど何もない、鍵のかかる部屋で過ごしていただくこと」
です。
どれだけ殺風景な部屋なのかというと、
下の画像くらいの環境を想像してもらえると分かりやすいと思います。

この画像は生成AIで作った画像なので細かい違いはありますが、だいたい大まかな雰囲気は合っています。
この部屋は鍵がかかるようになっていますが、
その鍵は患者さんのいる部屋の中からではなく、外から、私たち医療者が開け閉めします。
これが、隔離が「閉じ込められている、監禁されている」と言われる1番の理由です。
ちなみに、この部屋は「保護室」と呼ばれることが一般的です。
「隔離室」と呼ばれることもありますが、精神科医の間では「保護室」と呼ぶことが多いですね。
患者さんに、この部屋で過ごしていただくことを「隔離」、
その部屋自体を「保護室(隔離室)」と呼ぶ、という整理になります。
なぜ隔離が必要なのか
隔離の目的を一言で言うと、
「本人」と「本人以外」を切り離すこと
です。
例えば、統合失調症や双極性障害の躁状態では、妄想に伴って易怒性や攻撃性が高まることがあります。
そうなると、結果として人を殴ってしまうなど、危険な行動につながることがあります。
認知症の方も同様に易怒性が高まることもあれば、徘徊の結果、
他の患者さんの部屋に入ってしまい、体の治療で使っている酸素や点滴を外してしまうこともあります。
これは、命に関わる状況になりかねません。
精神症状によって、本人の行動が周囲の人に悪影響を及ぼす可能性がある場合、隔離が検討されます。
※他にも適応される場合がありますが一旦はこの理解で大丈夫です。
また、保護室の中には危険な物が置かれていないため、
物を使って自分を傷つけてしまう恐れがある方にも用いられることがあります。
例としては、統合失調症の方の場合は水を大量に飲む方も結構います。
ミネラルのバランスが崩れて致死的になることもあるので、飲水を制限するために隔離することがあります。
ただ、これも基本的な考え方は同じで、
本人と、本人以外の人・物を切り離すという目的です。
全ての患者さんが隔離されるわけではない
ここはとても大事なところで、
このイメージのずれが精神科病院に対する誤解につながっているのではないかと感じています。
初めて精神科に入院される方や、そのご家族から、よくこんな質問を受けます。

鍵のかかる部屋に閉じ込められるんでしょうか?



いえ、全く考えていませんし、必要ないと思いますよ
一般の方のイメージでは、
「精神科病院では、すべての患者さんが閉じ込められる可能性がある」
と思われていることが多いのではないでしょうか。
ですが、実際に隔離が行われるのは、
「精神症状が非常に強く、周囲に悪影響を及ぼす、及ぼされる可能性が高い人」です。
皆さんが想定しているよりも、かなり症状が重い方が対象になります。
例えば、
- 統合失調症
被害的な幻聴や妄想から、人を刺そうとして入院になった人 - 双極性障害
興奮が強く、易怒性から他人に殴りかかった人 - 認知症
病棟を徘徊し、他の患者さんとトラブルになったり、
治療中の点滴や酸素を外そうとしてしまう人 - うつ病
症状が非常に強く、物を使って自傷や自殺を図る危険が高い場合
これは隔離の中でも特に必要な例ですが、基本的にはこれに近い状況で隔離が検討されます。
精神科病院は、身体科の病院以上に馴染みのない場所だと思います。
そのため、「精神科に入院=重症→隔離されるかも?」と思われがちですが、
入院される方でも、上のようなさらに重症の方が対象です。
また、保護室は非常にコストのかかる特殊な部屋なので、精神科病院の中で部屋の数も限られています。
そのため、病棟運営の観点からも、安易に保護室を使わないようにしています。
もし保護室を全て埋めてしまうと、
本当に隔離が必要な方が入院する時に受け入れられる部屋がなくなってしまうからです。
こうした背景もあり、
「精神科入院=閉じ込められる」わけではありませんので、ご安心ください。
隔離は治療にも役立つ一面がある
隔離の主な目的は安全確保ですが、
治療上のメリットが得られることもあります。
それは、
外からの刺激を遮断すること
です。
保護室は、画像を見て分かるように、とても殺風景な部屋です。
窓はありますが基本的に開くことはなく、光が入る程度です。
部屋の中にはトイレと布団しかありません。
精神症状が非常に強い時期には、24時間この部屋で過ごすことになります。
もし、私たちやこの記事を読んでいる皆さんがこの部屋で過ごしたら、
あまりの退屈さに、かえって心の調子が崩れてしまうかもしれません。
ですが、保護室に入るような患者さんにとっては、
これが良い結果をもたらすことがあります。
例:統合失調症の方の場合
統合失調症の方の場合は
人の多い大部屋や病棟の広間では、
他の患者さんの話し声やテレビの音声が刺激となり、
幻聴や被害妄想が強まることがあります。
保護室では他の患者さんを見かけることがありませんし、
他の患者さんたちの話し声が耳に入ることもありません。
出入り口も制限されているので、誰かが入ってくるかもという不安も減ります。
その結果、安心感が得られ、幻聴や被害妄想が弱まることがあります。
例:双極性障害・躁状態の場合
双極性障害の躁状態でも同様です。
他の患者さんとの会話やテレビの情報だけで、
興奮や誇大妄想が強まることがあります。
保護室で刺激を減らすことで、
躁状態が比較的早く落ち着くこともあります。
保護室と呼ばれる理由
このように、隔離によって、より治療がうまくいくことがあるのです。
精神科治療の原則は「環境調整」「薬物療法」「精神療法」の3本柱ですが、
隔離とは、入院中に安心できる環境を用意するという環境調整の効果があるのです。
先ほど、精神科医は隔離室を保護室と呼ぶことが一般的だとお伝えしましたが、
これは
「保護室とは、外の刺激から患者さんを保護するための部屋なんだ」
という考え方に基づいたものです。
「保護室なんて詭弁だろ」と思われる方へ
ここまで読んで、



患者を保護するための部屋だから『保護室』なんて、詭弁じゃない?
と思われる方も多いかもしれません。
実際、患者さんの多くが、
保護室に入った経験を「保護されていた」と感じているわけではありません。
(一部には「保護室の方が楽だ」と希望される方もいますが。)
正直なところ、
どれだけ言葉を尽くしても、伝わらない部分はあるのだろうと思っています。
多分精神科以外の先生でもよくわかってない人は多いと思うんですよね。
それでいいのか!と思われるかもしれませんが、
精神科の患者さんと実際に接してみないと分からない感覚というものが有ると自分は思っています。
何度も、本当に何度も書いていますが、
精神科の病気とは、本来の自分や正常な判断能力が失われている状態のことです。
その状態に対して必要な処置を、
経験したことのない方や精神医療に関わっていない方が想像するのは、
とても難しいことだと思います。
純日本人が言ったことのない中東の生活や慣習を知識としては知ることができても
その背景とかを想像や理解することはできないでしょ?
ただ、精神科医として、
一般の方がこのような印象を持っているという事実は、
常に意識しておいた方がいいとも思っています。
その感覚を忘れてしまうと、それこそ監禁のようなものをしかねないなと思っています。
おわりに
今回は隔離についてお話ししました。
なんとなくイメージはつかめましたでしょうか。
精神科病院や精神科医療への嫌なイメージみたいなものが少しでも
軽くなればよいなと思います。
何度も言いますが、「精神科入院=隔離」ではありませんので
それだけでも覚えていただけたらと思います。
次回は「身体拘束」についてお話しする予定です。
ではまた。








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