こんにちは、たつみです。
今回は「認知症の治療」についてお話ししてみようと思います。
診察の中でも「この症状って良くなるんでしょうか?」と聞かれることは多く、認知症に対する治療のイメージは人によってさまざまだと感じています。
この記事では、実際に精神科で行っている認知症の治療について、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。
認知症の治療とは?治せるの?
認知症の治療という話をすると「認知症って治せるの?」という質問をされる方が一定数いらっしゃいます。
結論から言いますと
今の医療では基本的に認知症は治せません。認知症は付き合っていく病気です。

認知症が治せないなら、精神科受診してもよくならないんじゃ…



認知症は残念ながら治すことはできません。
ですが認知症でお困りなことに対して精神科はお役に立てると思います。
治療という言葉には「病気を治す」という意味と「現在の病状を良くする」という2つの意味があります。
精神科における認知症の治療の目的は後者の意味合いが大きいです。
精神科が考える認知症治療のポイント
僕らが認知症の患者さんを治療する場合、精神科治療の3本柱のうち重要視するのは「薬物療法と環境調整」です。
心理療法がいらないわけではないのですが、
お話しした内容を忘れてしまうことが多いのでそこまで重要視されません。
あとは、認知症は明確に脳の病気(心との関連が少ない病気)なので、心理療法ではなく明確に脳に作用する薬物療法が重視されます。
認知症に使うお薬の目的とは
認知症の方の治療には色んな種類のお薬が使われますが、大きく2種類にわけると
「抗認知症薬」と「それ以外」です。
なんだか某有名ホストみたいになってしまいました。
抗認知症薬の役割とは?進行予防とBPSDへの効果
今日本で使用している抗認知症薬は大きく分けて4種類の成分があり、飲み薬と貼り薬の2種類があります。まとめると下の感じです。
- ドネペジル塩酸塩(飲み薬と貼り薬がある)
- ガランタミン(飲み薬のみ)
- リバスチグミン(貼り薬のみ)
- メマンチン(飲み薬のみ)
覚える必要はなくて、なんとなく飲み薬と貼り薬があるんだなあくらいに思って頂けたらと思います。
抗認知症薬の目的は2種類あります。
1番大きい目的が
認知症の進行を遅くすること
です。
もう一つが
認知症の周辺症状(BPSD)を和らげること
です。
一つ一つ説明していきます。
認知症の進行を遅らせるって?
ここで大事なポイントは認知症の進行を遅らせるのであって、認知症を治しているわけではないということです。



認知症の進みを遅らせるってどれくらい遅らせるの?



当然の疑問ですよね。
大体半年〜1年間進行を遅らせるといわれています。
この半年〜1年間を遅いと取るのかどうかはまあ人それぞれのご判断になるかなと思います。
また認知症の進行のスピードは人それぞれ差があることと、どの段階で病院を受診されるかもひとそれぞれなのであくまでなんとなくの目安の話です。
認知症が進行した人にはいらない薬なの?



認知症の進行を遅らせる薬なら、進んだ後はもう飲まなくていいの?



これも当然の疑問です。
その方の状況にもよるのですが、抗認知症薬のもう一つの効果を期待して飲んでもらうことが多いです。
大前提として、抗認知症薬の1番の目的は「認知症の進行を遅らせること」なのですが、
抗認知症薬の効果はそれぞれ追加の効果があって「食欲を上げる」「活気を上げる」「興奮を抑える」等の効果があります。これらは認知症の周辺症状を抑える効果があります。
認知症は進行したとしても、この追加の効果を期待して飲んでもらうことは多いです。
「その他」の薬って?
「その他」の薬は種類があるのでこの場では具体的な薬品名ではあげませんが、一般的には「抗精神病薬」という主にドーパミンの働きを抑える薬を用います。



抗精神病薬?
精神病って統合失調症のことよね?
統合失調症じゃなくて認知症でしょ?



精神病=統合失調症というイメージがあるかもしれませんが、抗精神病薬を飲むからといって統合失調症というわけではありません
抗認知症薬は精神科の病気全般で使われるお薬なのです。
これ以上の抗精神病薬のご説明はまた別の機会にしますが、抗精神病薬は統合失調症以外にも使うんだなあ程度に覚えて頂けたらと思います。
「その他」の薬の目的は、
認知症の周辺症状を抑えること
です。



抗認知症薬もそっちに効くんでしょ?他の薬を使う必要があるの?



抗認知症薬のBPSDに対しての効果はちょっと弱いんです。
「その他」の薬はより抑える効果が強いんですよ。



じゃあ、「他の薬」を最初から使えばよくない?



症状が激しい人は最初から使うこともあります。
ただ高齢者は副作用も起きやすいので注意が必要です。
ご高齢な方の方が、薬の効果は出にくい一方で、副作用は出やすい傾向があります。
副作用が出やすいのは、筋力が落ちていたり、体が衰えているということが大きいです。
お薬だけで安心?限界と現実
お薬を使えば、認知症の周辺症状は抑えることができるのでしょうか?
この記事の最初にもお伝えしましたが、答えは「NO」です
それはなぜなのか、認知症という根本が治せていないからです。
精神科が出している薬はあくまで対症療法でしかないのです。認知症等根本が改善していないので問題の完全解決はできません。
また、僕らがお薬でコントロールすることが出来るのは
「認知症によって起こる気分の変化」だけなのです。
怒りっぽくなって、思わず人を叩いちゃう
悲観的になって、泣き出したり依存的になる
これらの症状のように、気持ちの不安定さが原因で問題行動につながっている場合は完全とは言わずとも抑えることができます。
ですが、おむつを食べるなどの異食や、家を出て道に迷ったきり帰ってこれない徘徊など、気分の変化とは関係ない行動の問題は残念ながら改善できないのです。
薬だけでは足りない?環境調整の大切さ
お薬で完全に症状をコントロールすることは残念ながら今の医療では出来ません。
そのため認知症では環境調整が必要なのです。
環境調整とは症状が出にくくなるように、周囲の環境を整えることです。
環境調整は多岐に渡ります。
例えば…
異食等の症状があるならば、可能な限り目につく位置に物を置かずにする。
お薬の飲み忘れがある場合は訪問看護を導入したり、ご家族の見回りを強化する。
徘徊があって、家族が24時間見ていないと何をするかわからない場合は、入院や施設への入所を検討する。
このように本人、ご家族のお困り事に応じて必要な環境を提供すること。これが環境調整です。
認知症の環境調整の手厚さは、精神科クリニックと精神科病院で比較すると、よほど高齢者に特化したクリニックでない限りは、精神科病院の方が手厚いです。
ですので、もし急ぎ対応して欲しい場合は、クリニックの先生に依頼して精神科病院へ紹介してもらうことも検討していただいた方が良いかなと思います。
おわりに
いかがだったでしょうか。認知症の治療のイメージがつきましたか?
お役に立てば幸いです。
認知症は本人だけでなく、支援をしているご家族の負担も大きい物です。
ぜひ抱え込まずにご相談ください。
ではまた。
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