こんにちは、たつみです。
今回ご説明するのは最近話題となっている軽度認知機能障害(MCI)についてのお話と
これまた話題となっている認知症の新薬レカネマブ(商品名:レケンビ)についてのお話です。
正直この話題はあんまりしたくないなあというのが実情です。理由はレカネマブは本当に今精神科医の中で賛否が分かれているお薬です。
賛同した記事を書くのも反対の記事を書くのも、怒られるんじゃないかという不安があります。
まあ僕の記事を読んでいる精神科の先生など居ないのですが…。まあ、それはおいおいということで…。
MCI(軽度認知機能障害)ってなに?優しく解説します。
最近話題のMCI、2024年11月15日からエーザイ株式会社によるテレビCMが放送されました。
もう今はしていないかもしれません。
MCIというのは簡単にいうと
「脳の機能は落ち始めているけど、まだ認知症と診断するほどは落ちていない」
という状態の患者さんをいいます。
それっぽい言葉で言うならば「認知症前駆状態」といったところでしょうか。
下のは、以前「認知症の重症度はどう判断する?〜2つの判断基準と具体的な症状を解説」という記事でお話しした重症度の表ですが、
MMSEの場合
28点〜30点:正常
24点〜27点:軽度認知機能障害(MCI)
21点〜23点:軽度認知症
11点〜20点:中等度認知症
0 点〜10点:重度認知症
MMSEはあくまで目安ですが、24点〜27点あたりがMCIの可能性があると言われています。
なぜこのMCIという考えが最近ここまで取り扱われるのか…
それは、恐らくレケンビの登場が理由でしょう。
MCIは注目されなかったのか?その理由を考える。
MCIがなぜ注目されなかったのかというと、
「MCIと分かってもできることがないから」
ではないかと思います。
実際には何もないわけではないのですが、インパクトに欠けるというのが実情です。
「インパクトって…」と思われるかもしれませんが、インパクトは大事です。
例えば、運動習慣は認知症予防に効果があると言われています。ですが…

運動をすることで認知症の進行を予防することができます‼️



ふ〜ん、まあそらそうなんじゃない?
と大体反応は薄いんですよ。
しかし、その中にMCIから認知症への移行を食い止める可能性がある薬がでてきました。それこそが「レケンビ」です。
結局認知症は治る?治らない?



あれ?前の記事で認知症って治せないって言ってなかった?



認知症の治療方法がないのは今も変わりません。
厳密にはレケンビも認知症を治しているわけではありません。
認知症は残念ながら依然治せない病気です。
レケンビはMCIから認知症への移行を食い止める、あるいは認知症の進行を遅らせることができるお薬です。
そして、この「認知症を治しているわけではない」というところが、医療者の中でも物議を呼んでいる理由です。
レケンビは何故効くの?
アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβとタウ蛋白という異常なタンパク質が、風呂場のカビのように血管や脳細胞内にたまることで脳の機能が落ちていく病気」という風にご説明しました。
レケンビはこのアミロイドβという異常な蛋白を除去してくれる薬です。
アミロイドβを除去することで細胞がダメージを受けることを防いでくれるため認知機能低下が進行しない、あるいは人によっては改善することがあるのです。
大体「認知症が良くなる」「認知症の進行を防ぐ」「変化なし」それぞれ3分の1の確率で起こると一応言われています。



そのアミロイドβって悪いものを取ってくれるんだったら
重度の認知症の人にも使えばいいじゃん
重度の人の方がたくさん溜まってそうじゃん



残念ながら、レケンビはアミロイドβは除去してくれますが
アミロイドβでダメージを受けた脳機能を治すことはできません
これが中等度〜重度の認知症の方に使えない理由です。軽度の細胞へのダメージが少ない時期であれば、
アミロイドβを除去することで脳機能が回復する可能性があるのですけどね。



抗認知症薬も認知症の進行を遅らせるんじゃなかった?



他の抗認知症薬はアミロイドβには効きません。
病気のより根本に近いところに効くため
レケンビの方がさらに効果が強いです。
レケンビの副作用「ARIA」ってなに?
認知症の進行を遅らせることができるレケンビですが、副作用はあります。
まあ副作用がない薬はないのですけどね。
レケンビには特有の副作用があります。それが「ARIA」と言われる脳出血です。



脳出血だと⁉️
めちゃくちゃ危ない薬じゃねえかよ‼️



脳出血ではあるのですが、皆さんが想像する脳出血とは微妙に違います。
いわゆる救急車で運ばれる脳出血は「脳の血管が破れて出血している状態」のことを言います。
ARIAは血管が破れるわけではなくて、アミロイドβが血管から取り除かれることで、「一時的に血管から血液が漏れ出るみたいな状態」です。小さい点状の出血や、血液の中の鉄分が沈着するといった軽微な変化です。
そのため、ARIAが起きても、自覚症状はないことが多いです。ただ、稀に頭痛や意識障害を起こる可能性があります。
そのため、レケンビの投与は頭部MRIのある認定を受けた大きな病院のみでしか治療を受けることはできません。大体大学病院が多いですね。
なんでレケンビは物議を呼んでいるのか?



これだけ聞くと、レカネマブは安全性にも気を遣って認知症も抑えてくれる良さそうな薬だけど
なんで物議を読んでるの?



いろいろ理由はありますが、1番の理由は
べらぼうに薬が高いからです。
レカネマブは1瓶(300mg/2ml)あたり、78,656円かかります。ほぼ8万円ですね。
しかもレカネマブは体重1kgあたり10mg投与する必要があります。
つまり体重30kgより大きい人の場合は2瓶使う必要があり、お薬だけで15万7千円近くかかります。
それに加えて、レカネマブは2週間に1回の投与が必要です。
つまり1ヶ月のお薬代だけで30万円かかるのです。これに加えてMRIの検査代や診察代も追加されます。
3割負担の場合、患者さんの自己負担は月8万円程度、残りの22万円は国の負担となります。
年単位では個人負担96万円、国の負担は264万円。ものすごい額です。
2025年6月現在、医療費の社会負担の問題はほぼほぼ毎日話題に上がります。
多くの医療者の意見として「高齢者にばかり大量の社会保険を注ぐのはやめよう。医療資源を適切に分担せねばいけない」というものがあります。
その風潮の中で、「これだけ高い薬を使うのはどうなんだ?」となるのはある意味当然です。
レケンビが反対されるのには他の理由もあります。
レケンビはいつまで続けなければいけないのか?
レケンビはいつまで続けなければならないのか?実はそこのデータは出ておりません。
ですが、レケンビは日本や海外の臨床試験での、18カ月程度継続して使用した場合に効果があったという結果をもとに承認された薬です。最低でも1年半の継続は必要です。
そこで本題に戻ります。
ここからはデータではなく、僕個人の意見ですが、レケンビは効果があった人の場合、死ぬまで続ける可能性のある薬ではないかと思っています。
レケンビはアミロイドβを脳から取り除く薬です。ですが、アミロイドβが溜まらないようにする薬ではありません。
つまり、レケンビを使用しなければ結局アミロイドβは溜まりアルツハイマー型認知症になる筈です。
認知症になるのは、やはり皆さん嫌なものです。ましてや効果があった場合、きっと患者さんは継続することを希望するでしょう。
1年でも264万円の国の負担、それを何年も続けるとなると、国の負担は計りしれません。
結局お金の話になるのですが、いつまで続けるのか、その先行きの不透明さもレケンビへの風当たりが強い理由です。
たつみはレケンビをどう思う?
自分の意見を言わずに事実を淡々と言った方が良いかとも思いましたが、この内容で自分の意見をいわないのも我ながらずるいなと思いましたのでこの場で一応自分の意見を言わせていただきます。
2025年現在、自分は大学院生として大学病院で時折認知症の外来をしております。その中にはレケンビの使用目的に紹介される方もいらっしゃいます。
そのような立場の人間ですので、偏っている部分もある筈です。その点を留意して聞いていただけたらと思います。
個人的な意見を言うと「レケンビを使用することで医療費が結果減らせるのであれば使用しても良い」と思っています。



薬が高いって言ったのはお前だろ‼️
結局医者は金儲けしか考えてないんだ‼️



そもそも進行した認知症もお金のかかる病気なのです。
認知症が進行したため、家では過ごせず、かといって施設にも入れないという方は皆さんが想像している以上にいらっしゃいます。
その人たちはどうなるのか、それは精神科病院で長期的に入院することになります。下手したら亡くなるその時まで。
病院に長期的に入院するということも、同じく国の負担になります。
あるいは、認知症の進行が遅れることで、より長く働くことが出来、税収が増える可能性もあります。
今の所どちらが国の負担が少ないのかというデータは出ていないのです。
なので、今後必要なのは、どちらが医療経済上負担がすくないのかということを明確にすることだと思います。
個人的に一番良いのは自由診療として100%患者負担で取り扱うことだと思っています。
おわりに
いかがだったでしょうか、最近流行りのMCI、認知症の新薬レケンビについてご説明しました。
皆さんはご自身がアルツハイマー型認知症になった時レケンビを使いたいですか?
もしよろしければコメントやXで教えていただけたら嬉しいです。
ではまた。
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