こんにちは、たつみです。
前回、前々回とアルツハイマー型認知症、血管性認知症についてお話ししました。
認知症には他にも種類はありますが、一旦それはおいといて今回は認知症の重症度についてお話しします。
一口に認知症と言ってもその症状の重さは全く違います。今回の記事で認知症の症状がどの段階かをざっくりと判断できるようにしてもらえればと思います。
認知症の重症度はどう決まる?大切な2つのポイント
認知症の重症度は以下の2つの視点で考えます。
認知症の軸は2軸
一つは、認知機能がどれくらい低下しているか
一つは、認知症によりどんな問題が生じているか
この2つを組み合わせて、全体の重症度を判断していきます。
多分これだけ言われてもなんのことかわからないと思うので、一つずつお話ししていきますね。
認知症の進行度を測る検査:MMSEとHDS-Rの違い
認知機能低下の評価は認知機能検査で測定します。
認知機能検査は複数ありますが、基本的には
「MMSE」と「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」という検査が一般的です。
以前書いた記事「認知症の診察って時間がかかりすぎじゃない⁉︎〜診察の流れを解説〜」でも取り扱った検査ですね。
点数がすべてではありませんが、これらの検査の結果は認知機能低下の進行度を評価する際の参考になります。
特にMMSEは国際的な基準として広く使用されており、点数による重症度分類の目安として活用されることが多いです。
HDS-Rも日本の現場では広く使われており、点数の目安はありますが、MMSEほど重症度分類の基準としては使われません。
HDS-Rは、記憶力や簡単な計算、見当識の確認など、日本人にとって分かりやすい質問を中心にしている検査です。一方で、MMSEは図形の模写や言葉の記銘・再生など、より多面的に脳の働きを確認できる検査というものが多いのでMMSEが国際的な基準として利用されています。
MMSEの場合
28点〜30点:正常
24点〜27点:軽度認知機能障害(MCI)
21点〜23点:軽度認知症
11点〜20点:中等度認知症
0 点〜10点:重度認知症
HDS-Rの場合
およそ25〜30点:正常
21〜24点:軽度認知機能障害疑い
20点以下:認知症
※上のように一応分類しましたが、HDS-Rで重症度を判断することはあまりありません。
HDS-Rの目的は「病気の重さを調べる」のではなく「病気かどうか判断する」ことに重きを置いているからです。
とはいえ認知症が進むと点数は落ちるので、なんとなく把握はできるのですけどね。
これが「認知機能低下がどれだけ進んでいるか」を調べるための検査になります。
ですが、検査だけで認知症の重さを判断できるわけではないということは、覚えておいていただきたいところです。
軽度認知機能障害(MCI)とは?認知症との違いを解説

検査のところにある軽度認知機能障害ってなに?
認知症とは違うの?



軽度認知機能障害は近年、認知症領域で注目されている考え方です。
ざっくりというならば「認知症予備群」といったところでしょうか。
軽度認知機能障害は認知症領域で注目されている考え方です。
「認知機能低下はあるけど、認知症と診断するほどではない」という段階を指します。
ここは近く別の記事で取り扱う予定ですので、今回はさらっとだけ触れます。
とりあえず、「まだ認知症ではないんだな」とだけ押さえていただければ良いと思います。
認知症で現れる症状とは?BPSDを中心に解説
続いてお話しするのは「認知症の症状の評価」です。
僕ら精神科からするとこちらの方が重要です。
以前「認知症のお話〜そもそも認知症ってどこを受診したらいいの?」という記事で、
認知症の症状で困ったら精神科をお勧めしますとお伝えしたように、大体僕らに相談が来るのはこの症状の問題です。
認知症とは単に記憶力や脳全般の機能が落ちるだけの病気ではありません。
認知症の進行に伴って、様々な行動の変化や気持ちの変化が起こるのです。
この認知症に伴う行動や気持ちの変化を、「BPSD(ビー・ピー・エス・ディー)」と言います。
日本語では「認知症の行動・心理症状」と言います。そのまんまですね。
行動の変化と、気持ちの変化の2つにわけてご説明しますね。
認知症の行動面の変化
行動の変化と一口にいってもいろんな変化があります。
大体は下のものになりますね。
- 暴力・暴言・介護への抵抗
- 不潔行為
- 異食
- 徘徊
正直なところ、これらの症状が出た場合、ご家族だけでケアを続けるのはとても大変です。
お薬や入院といったサポートも選択肢の一つですので、無理せず医療機関に相談してくださいね。
徘徊に関してはアルツハイマー型認知症のところでご説明したので、その他の症状をさらっとご説明します。
また治療に関しても別の記事でご説明しますので、今回は症状に触れるだけにさせていただきます。
暴力・暴言・介護への抵抗


大体精神科病院に入院する方で最も問題かなと思います。認知症が進行する中で感情のコントロールが苦手になりすぐに怒り出してしまう。
家族への暴力行為から家族が疲弊したり、やっと順番が来て入所できた介護施設からも介護への抵抗から「もう当施設ではケアをすることは出来ません」と匙を投げられてしまう。
最も基本的なBPSDですが頻繁に問題になります。暴力行為は激しくて、全力で力を奮うことがあるので、高齢者といえどかなり危険です。
不潔行為
不潔行為は読んで字の通りで、不潔な行動をすることです。
履いたおむつを脱いで廊下で排便をしたり、その排便を手でさわったりなど、
ご家族さまにとってはいろんな面でショックを受ける光景かと思います。
不潔行為は認知症の最重度の症例でみられることがあります。
異食


異食はイラストのように「本来食べるものではないものを食べる行為」です。
食べるものはオムツやゴミ袋などものを選びません。
そもそも食べれないものを食べるという危なさだけでなく、窒息の怖さがあります。
認知症の心理面の変化
心理面の変化もいろいろあるのですが、以下のようなものです。
- 抑うつ・不安
- 幻覚
- 妄想
- 無気力(アパシー)
- 易怒性(怒りっぽくなる)
ここも同様にさらっとご説明していきますね。易怒性に関しては読んで字の如くですので省略させていただきます。
抑うつ・不安
抑うつ・不安は以前うつ病で書いた記事と症状としては同じです。ただなぜ認知症の方が抑うつになる方がいるのか、その理由はわかりません。
僕は個人的には「自分が自分でなくなっていく感覚に対しての恐怖」なのではないかと思っています。
自分が認知症であることの自覚の有無を問わず。日々落ちていく自身の認知機能をなんとなく把握している方はいらっしゃいます。その方はなぜ自分が変化しているのかという恐怖を抱えているのです。そのような方で激しい不安を訴えられる方がいます。
逆に認知症が進行すると減っていくことが多いです。皮肉なことですが…
幻覚
幻覚はレビー小体型認知症というタイプの認知症で多く見られる症状です。
誰もいないはずの家の中で人の姿が見える。虫などの小動物がいるように見える。
これが幻覚です。
妄想
妄想にはアルツハイマー型認知症の記事で説明したものとられ妄想が基本的には多いですが、
それ以外では「嫉妬妄想」という妄想が出ることがあります。
読んで字の如く、「恋人がだれかと浮気している」という妄想です。
これは「あの人浮気してるんじゃ?」という疑問ではなく「あの人は浮気してる‼️」と事実として確信していることが多いです。
認知症の方の場合、感情のブレーキが効かないので、その激しい怒りからその妄想上の浮気相手の家にいって大暴れして、警察に通報されて精神科病院に連れて来られることもあります。
無意欲(アパシー)
無意欲とは、読んで字の如く「何事にも意欲がわかない」という状態です。



うつ病とは違うの?



これが結構見分けが難しいところですが、
同じやる気がしないでもアパシーとうつ病は違います。
うつ病は、「やる気が出ない自分はおかしい、嫌だ」という悲観的な要素があります。
一方アパシーは「やる気が出ないからしないだけ。ただそれだけだよ」というある種達観みたいなものがあります。



お父さん最近ゴルフしないわね



ああ、前ほど、したい気もしなくてな〜
みたいな感じで、うつ病の人には「やらない自分に対しての葛藤」があるのですが、
認知症のアパシーは「ただしたくないからしない」という感じです。
まとめ
いかがだったでしょうか、認知症の2軸での重症度の評価についてまとめてみました。
認知症の重症度は検査の結果だけでなく、どのような症状がでているかを含めて総合的に判断する必要があります。
お困りのことがあれば、いつでも精神科へご相談ください。
ではまた。
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