こんにちは、たつみです。
姪の誕生日プレゼント編や、自分の指定医合格のご報告等で認知症の記事の続きがだいぶ空いてしまいました。
また今日から精神科の病気についての記事を更新していこうと思います。
今まで、認知症の最初の症状や認知症の初診時の検査についてお伝えしました。
今回取り扱うのは「アルツハイマー型認知症」です。
アルツハイマー型認知症は、日本で最も多い認知症の一つです。この記事では、もの忘れ、もの盗られ妄想、徘徊など、よく見られる症状とその理由について、お話しします。
そもそも認知症に種類ってあるの?
認知症にも種類があります。大きく分けると下の4つですね。
- アルツハイマー型認知症
- 血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
記事で扱うのはアルツハイマー型認知症と血管性認知症にしようかなと思います。
レビー小体型認知症と前頭側頭型認知症は今のところは扱わない予定です。
理由は、日本人ではアルツハイマー型認知症と血管性認知症の2つが圧倒的に多いからです。
今回の記事ではタイトルにあるようにアルツハイマー型認知症を取り扱います。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は日本人で最も多い認知症の型になります。大体認知症全体の約半数を占めます。
あまり覚えなくて良いですが、アミロイドβとタウ蛋白という異常なタンパク質が、血管や脳細胞内にたまることで脳の機能が落ちていくと言われています。
強固な風呂場のカビのように、血管や脳細胞にこびりつくように溜まっていきます。
ちなみに、なぜアミロイドβが溜まるのかはまだ完全にはわかっていませんが、脳の老化や体質、遺伝、生活習慣の影響があると考えられています。
アルツハイマー型認知症は脳の「海馬」という記憶を司る領域が最初にダメージを受けるので、
「最近のことが覚えられない」という記憶の障害が症状としては前面にきます。
よくテレビである「ご飯はまだかの?」や、「同じことを何度も聞く」という症状は「この覚えられなさ」によるものです。

もの忘れだけであんなに問題になる?
新しいことを覚えられないだけでしょ



もの忘れというものはかなり怖いですよ
嫌なことを忘れられるというプラスもあるかもしれませんが…
もの忘れはアルツハイマー型認知症の根本であり、これから多くの症状が生まれてきます。
症状は全てを説明するとどれだけ時間があっても足りないので、
本人、ご家族の困りごととして比較的多い、「もの盗られ妄想」、「徘徊」についてこの記事ではご説明します。
「もの盗られ妄想」って?
もの盗られ妄想とは文字通り、「自分のものを他人に盗まれた‼️」という妄想です。
だいたいその他人とは同居している、あるいは近くに住んでいる家族のことが多いです。
なぜそんなことが起こるのか、やっぱり「新しいことが覚えられない」、そして「昔のことは覚えている」ということが原因にあります。
ではその流れを見ていきましょう。



財布や通帳はいつもこの場所に置いてるんだ。
無くしたらいけないからね。



え、高齢者の家での窃盗が増えているの?
どうしよう財布をもっとわかりにくい場所に隠さなきゃ



よし、この新しい隠し場所なら大丈夫‼️
しかし、ここで問題があります。認知症は昔のことは覚えているのですが、新しいことは覚えていられないことがほとんどです。
この場合、「財布は以前の定位置に置いているということ」は昔からの情報なので覚えていますが、
「新しい隠し場所に財布を置いた」ということは忘れます。
するとどうなるのか。



なんでいつも置いてあるところに財布がないんだ‼️
お前が盗ったんだろう
そうでなきゃなくなるわけがない‼️



え、とってないよ。
そんなことする訳ないじゃないか‼️



いーや、そんな訳がない
もう誰も信用ならん‼️
この残りの金は誰にも見つからない場所に隠さないといかん‼️
これが認知症のもの盗られ妄想の流れです。最後のように家族からもお金を隠そうとするので、最後の隠し先は本人は覚えていないし、家族は知らされていないので結局どこにあるかはわからない。という悲惨な事態になります。
「財布を持っていた昔の記憶」と、「今目の前に財布がないという事実」だけがあるので、その点と点をむりやり繋ごうとした結果生まれる妄想です。
これはもう強固な妄想で、家族関係が一気に破綻することもあります。
たまに実際に家族が盗んでいたという事例もあるので、完全に妄想とも言い切れないのが精神科医としては頭の痛いところです。
「徘徊」って?
徘徊も認知機能低下と大きく関連があることです。
たまにテレビの報道で「高齢男性が散歩に行ったきり戻ってこない」という内容のニュースが流れてくることがあると思います。
誘拐の可能性もありますが、高齢者の場合は認知症による徘徊の可能性もあります。



なんで認知症になると徘徊するようになるの?



別に認知症の方も、歩き回りたくて歩いているわけではありません。
道を覚えておらず帰れないということが多いです。
「散歩に行って帰ってくる」皆さんが当たり前にしているこの行動は実は結構高度な作業なのです。
家からどのような手順でここにきたのか、道中の景色はどうだったのかなど、実はいろんな情報を記憶する必要があります。
納得できませんか?
例えば旅行で初めての土地に行った時に、スマホを一切使用しなかったら、自分のホテルに戻るのはかなり至難の業のはずです。
また、徘徊の恐ろしいところは「なぜ自分が外出しているか、目的地すら忘れてしまうこと」です。



ここはどこだ。わしは一体どこにいくつもりだったんだろう
とりあえず歩くか。
と言った感じで更に遠くに向かってしまう。
これが徘徊の恐ろしさです。しかも徘徊には未だ有効な対策がありません。
ご家族が目を離した一瞬で外出してしまう人も多いからです。
ただ、それを防ぐために家族が交代で見守り続けるというのは現実的ではありません。
これを防ぐには鍵のかかるGHに入所するか、精神科病院に入院するしか今の医療ではないというのが実情です。
アルツハイマーの人ってニコニコしてるんじゃないの?



アルツハイマー型認知症ってニコニコしてる人
って印象があるんだけど、うちのお爺ちゃんは怒りっぽいよ
本当にアルツハイマー型認知症なの?
これ、外来でたまに聞かれる質問です。アルツハイマー型認知症の患者さんのイメージとして
「多幸的でにこにこしている」というものがあります。これは精神科の教科書でも書いてあります。


とはいえ、ニコニコしている人が全てではありません。精神科での入院以来のある方はどちらかというと、攻撃性が上がっている方が多いです。



ニコニコしている人と、怒りっぽい人は何が違うの?



その方の性格と認知症がどれだけ進んでいるかということが大きいのではないかと思います。
認知症になったからといって今までの性格がすぐに変わるわけではありません。
個人的には認知症になった時の性格が大きいのではないかと思います。
例えば、大手の商社などで第一線でバリバリ、勝ち気で働いていた方。
そんな方が認知症になった場合、最初はかなり怒りっぽくなりやすい印象があります。
逆に認知症になる前からすでに穏やかな方は認知症になると、ニコニコとした方になります。
精神科の治療でも、
一番激しい怒りっぽい時期を入院で対応し、その時期が過ぎたら、グループホームへの入所や、ご自宅へ退院する。
という流れはよくあります。
また、認知症が進行しているということを自覚されている方、なんとなく自分が変わっていっているということを無意識に感じ取っている方の場合、
その不安や恐怖心から、激しく不安定になることがあります。
進行するとどうなるの?
今回特にとりあげたのは、アルツハイマー型認知症のもの忘れによる症状について取り上げました。
アルツハイマー型認知症が進むと最終的にどうなるかについては、今後どこか一つの記事でまとめようかなと思います。
というのも、認知症が進行した時の症状は多岐にわたるということと
最初に説明した4つの認知症のどれであっても、進行し切ると症状が似てくるからです。
またいつかご説明させていただきますので、その時をお待ちください。
治療はないの?



認知症って治らないの?
こんなに昔から色々言われてるのに



まだ認知症を完全に治す治療はありません。
ですが、進行を遅らせる薬はあります。
またアルツハイマー型認知症にだけ、
認知症を治せる可能性のある薬があります。
認知症は基本的には現時点では治すことはできません。僕も患者さんには、
「今後付き合っていくご病気です。ただお薬や運動で進行を遅らせることができるので一緒に頑張りましょう」
というふうにお伝えしています。
基本これは上に挙げた4つの病気全てで当てはまるのですが、
アルツハイマー型認知症にだけ、初期段階であれば、認知症を治す、予防できる可能性のある薬が最近でました。
それがレカネマブというお薬です。
ただ治療に関してこの記事で説明すると更に文章の量がすごいことになってしまうので、
「認知症の進行」と同様に今度別の記事でそれぞれまとめようかなと思っています。
おわりに
いかがでしょうか、今回はアルツハイマー型認知症の触りだけお話しさせていただきました。
治療の話や最終的にどうなるのかについてのお話しはまたの機会とさせていただいたので、不完全燃焼感があるかもしれませんが、いずれ必ずお話しいたしますので
どうかその時はお付き合いいただければと思います。
ではまた。
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