こんにちは、たつみです。
今回は精神科治療だけではなく、医療全体で使われる言葉「DNAR」についてお話ししようと思います。
2025年4月下旬、SNSの特に医療界隈でちょっと話題になっていたので、自分のスタンスを改めて確認しておきたいなということと皆さんにもDNARについて知ってほしいなと思ったのでこの記事を書かせていただきました。
ちなみに今回、医療界隈でDNARが話題になったのはこのポストが原因でした。
DNAR (DNR)の人にどこまで医療行為をするのか、それは今後も度々話題に上がると思います。あるいはご家族様に不幸があり、突然その判断をご家族に強いられることもあるかもしれません。
そのようなときに考えることができるように、少しでも気持ちに余裕を持てるようにご説明させてもらえればと思っています。
そもそもDNARってなに?

そもそもDNARって何?
DNRって上の看護師さんは言っているけどそれとは違うの?



DNARもDNRも正直同じ意味です。
今はどちらかというとDNARと言われる方が一般的ですかね。
DNARとは簡単に言うと
「急変時、予期せぬ状態悪化時にどこまで蘇生処置をするか」
みたいなものです。
DNARがどんなものか、DNARとDNRの違いに関してはChatGPTに聞くと、こんな感じに教えてくれます。
DNARとDNRは、どちらも「蘇生措置を行わない」という意思表示を指し、意味に違いはありません。DNARは、DNRの「do not resuscitate」に「attempt」を追加したもので、蘇生を「試みない」というニュアンスを強調しています。
- DNAR (Do Not Attempt Resuscitation):蘇生措置を試みないという意思表示を指します。
- DNR (Do Not Resuscitate):蘇生措置を行わないという意思表示を指します。
- 違い:DNARは、DNRよりも蘇生を試みないという意思をより強く強調しています。DNRは、蘇生する見込みがある場合でも蘇生措置を施さないと誤解される可能性があるため、DNARに修正されました。
- 理由:DNARが使われるようになった背景には、DNRが「蘇生が成功する見込みがあるのに蘇生措置を施すな」と誤解される懸念がありました。DNARは、蘇生する見込みが少ない場合に蘇生措置を試みないことをより明確に示しています。
- まとめ:DNARとDNRは、同じ意味で使われ、蘇生措置を行わないことを意味します。DNARは、DNRに「attempt」が追加されたことで、蘇生を試みないという意思をより強く強調しています。
結論から言うと、どっちもほぼ同じと言うことです。
DNARって必要?
DNARは蘇生処置を行わないという意味ですが、医療現場では広く「急変時の対応を決めること」みたいなニュアンスで言われることも多いです。
DNARをなぜ取る必要があるのか
それには、さまざまな理由がありますが一番大事なことは
「本人が望まない治療をしないようにすること」
です。
今の医療技術の進歩はすごいものです。制限時間内に医療につながることができれば危機的な状況を一時的に脱せる、すなわち救命することは可能です。人工呼吸器等もあるのでそこから延命することも可能です。
自分は医学生のときに、人工心肺や人工呼吸器、透析など様々な臓器の代わりの役目を果たす医療装置、それを巧みに使いこなす上級医の先生をみて



人間は生き延びるということにおいては、
ほとんど永遠の命を手にしたんじゃないか?
みたいなことを感じたほどでした。まあ実際そんなことはないんですが。
ですが、延命できる=回復できるというわけではありません。


救命、延命となると大体人工呼吸器を使用されます。それに加えてたくさんの点滴を使用します。
回復するにつれて、点滴は減り、人工呼吸器の管を外せるようになるのですが、実際にそこまで回復する人というのは多くはありません。
人工呼吸器に繋がれたまま、ずっと眠ったまま最後の時を迎えるということも多いのです。
果たしてそうなることをご本人が望んでいるのか、それを元気なうちに考えておきましょうということです。
みんなDNARをとるの?



私もDNARっての決めておいた方がいいの?



流石に全ての方にDNARのお話をすることはありません。
それでいうなら僕もDNARの意思表示はしていませんしね。
DNARのお話をするかどうか、それは基本的に皆さんの年齢と病気の種類によります。
例えばご高齢の方の場合は、肺炎などの感染症や、心筋梗塞、脳卒中など、急に生命に関わる病期になる可能性は高いのでDNARのお話をすることは多いです。
お若い方であっても、癌などで緩和ケアが導入されている場合はDNARについてお話しすることがあります。
僕ら精神科の場合は、認知症の方が入院する際は、DNARについてのお話をすることが多いですね。
認知症は基本的に高齢者がなりますし、入院中に肺炎を起こし危機的状況になることも多いので。
蘇生処置ってしたらいけないの?



主治医からDNARの話をされたら受け入れないといけないの?



そんなことはありません。
もちろん、僕らは主治医として、正直なところをお伝えします。
大体DNARのお話をするのは、
「急変のリスクが高く、そこから回復するのはかなり難しい」
という方が多いです。
ですが最後に判断するのは本人とご家族様です。
その判断を誰も否定はできないのです。
DNARは断りにくいというのは正直あるのだろうなと思います。最近は高齢者の方への医療費の問題等が声高に言われている時代です。ひどいところでは高齢者は治療しない方がよいとまで言われることもありますからね。
そこに関しては、もちろん僕もどこまで治療するべきなのかという葛藤は持っています。
ですが最終的に決めるのはご家族様です。他人の命をどう終わらせるかを決める権利はないのですから。
DNARに関して個人的に思うこと
他人の命に関して僕らは決める権利はありません、というのは本心ですし、僕ら医者は人の命を扱うだけあって傲慢になりがちなので、そうならないように気を付けるために胸に刻んでいます。
とはいえ同時に現場の人間でもあるので、以下のような問題があるということはお伝えしておくべきかと思いお伝えしておきます。
精神科において、
認知症の方の場合、ご自身でDNARの判断をすることは難しいことが多いです。
本人の代わりにご家族様にDNARに関して確認することは少なくありません。
このご家族の判断というところが難しい。僕はDNARのお話をするときには、



お元気だった頃のご本人だったらどのように判断されるのか?
ということを大事にしてもらえたらと思います。
というふうにお伝えしています。あくまで本人の意向が大事ですよということをお伝えしているわけです。
そのときに、「できることはなんでもしてください、なんとしても長生きさせてください」と言われる方も一定数いらっしゃいます。
本人の気持ちを考えて判断されるのであれば特に問題はないのですが、
実情として、本人の生活保護や年金を家族が当てにしているので、本人が亡くなっては困るという複雑な事情を抱えているケースもあります。
そして、そのようなケースは結構多いんですよね。
こういうケースに直面すると、
僕らは誰のために医療を行なっているのか、
医療費を無駄にしてはいないだろうか、
何より、自分の担当している目の前の患者さんの人生の最後はこれで良いのか
とやるせなさを感じる時はあります。
「いやそれがお前の仕事だろ」、とか「若造が偉そうに言うな」と言われたらそりゃそうなんですけどね。
人は誰でも最後の時を迎える、その時期はわからない
DNARの説明をどのような患者さんにするのか、ということに関しては医師によって異なると思います。
僕は認知症で入院される方に関してはDNARのお話をすることが多いです。
それは何故か。「人は亡くなる」ということをご家族様に認識してほしいからです。
僕らは医療職という特殊な仕事をしています。人が亡くなるということは、残念ながらそこまで珍しいことではありません。
ですが、多くの方にとって人が亡くなるということはそこまで多い経験ではないでしょう。ましてや大切なご家族であれば尚のことです。
だからこそ、「最後の時間をどうすごすのか」、本人やご家族に考えてもらい、後悔ない時間の過ごし方をしてほしいと思っています。
結局DNARは輸血しないの?



それはわかったけど、結局DNARの人は治療しないの?
「輸血するなんて」って上の人は言ってるけど



これよくある勘違いなのですが、
DNAR=治療しないではありません
DNARはあくまで「予期せぬ急変の時の対応」に関しての話です
やっと本題ですね。
これよくある勘違いなんですが、DNARはあくまで急変時の対応についての話なので、それ以外に関しては基本的に治療します。
そもそも、全く治療をしないのであれば、入院する意味がないですからね。
急変時を問わずに治療をどこまでするのかというのは、DNARとは別個に改めて話し合うことが多いです。
例えば、精神科病院の認知症の方の場合は、よく起こりうる合併症について、その時の対応を追加で話し合うことが多いですね。
骨折などの怪我
→痛みが強いので本人の苦痛緩和のために手術を依頼する
食事がとれないとき
→胃管は本人の苦痛が強いので点滴だけする
誤嚥性肺炎などの感染症になった時
→抗生物質の点滴はするが、症状が悪化しても総合病院への転院はしない
みたいに、それぞれに治療範囲内を設定します。
今回のポストの件に関しては、おそらくですが
急な予期せぬ出血ではなくて、治療中の病気による緩やかな貧血の進行だったんじゃないかなとは思います。
もちろんあくまで予想ですが。
DNARって一回決めたらもう変えられないの?



DNARって一度決めたら変えられないの?
それはそれでなんだか怖いんだけど



DNARは基本的にいつでも撤回可能ですのでご安心ください。
これもよくある勘違いです。DNARは基本的にいつでも変更可能です。
状況によりお気持ちが変わることはありますからね。そこはご安心ください。
ただ1日おきに意見がすぐに変わるというのは困りますので、いずれにせよしっかりと考えて決めていただけたらと思います。
DNARはいろんな事情が絡んでくる
DNARに関しての話題は、今後も度々話題に上がるだろうと思います。
社会保障における医療費の負担はかなり大きく、国としても医療費の削減をしきりにしようとしていますから。
もしかしたら、年齢を基準にして、延命治療をしないという時代になるかもしれませんね。
あるいは、それをするなら保険は聞かずに自由診療でやるとか、になるかもしれません。
まとめ
DNARに関して、なんとなくイメージが付きましたでしょうか。
DNARは本人・家族にとって、「最後の時間をいかに過ごすのか」ということを考えるためにも大事な考え方であると思います。
今決める必要はありませんが、いつかその時が来た時に納得のいく決断ができるように、この記事がお役に立てば幸いです。
ではまた。
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