こんにちは、たつみです。
前回の「うつ病ってどんな病気?〜うつの症状〜」ではうつ病は「頭が働かなくなる病気」というイメージについてお話ししました。今回はもう少し具体的に、「うつ病になった方がどんな雰囲気になるのか」「どんな症状がでるのか」といった点をお伝えしていきます。
ただ、その前に「うつ病がどれくらい身近な病気なのか」、「どんな人がうつ病になりやすいのか」について少し触れておきましょう。
うつ病ってどれくらいの人がなるの?
うつ病は、決して珍しい病気ではありません。
厚生労働省の調査や世界保健機関(WHO)の報告によれば、
日本では15人に1人が一生のうちに一度はうつ病を経験するといわれています。
また、年々うつ病の患者数は増加傾向にあり、今や全国で100万人以上がうつ病で医療機関を受診しているとされています。まあこれはうつ病になる人が単純に増えたとも言われていますし、以前より精神科の受診がしやすくなったので、診断される機会が増えたからだとも言われています。
自分も診療していると、うつ病の方の受診相談が割合的には一番多いなと感じています。
どんな人がうつ病になりやすいの?
うつ病は誰でもかかる可能性がありますが、特に真面目で責任感が強い人や、人に頼らず、弱音を吐けない人とかに多いです。また、うつ病は遺伝的な要素も関与していると言われており、家族にうつ病になったことがある方がいる場合もうつ病になりやすいと言われています。

うつ病はストレスがかかっている人がなるんでしょ?
と言われることがあります。もちろんこれは間違いではないのですが、うつ病はネガティブな出来事だけでなくてポジティブな出来事でもおこります。出産とか昇進とかですね。
こういう真面目で責任感の強い人は、辛い気持ちとかを自分の中で抱えがちであることや、
「辛いのは努力が足りないからだ、もっと頑張らなきゃ!!」と無理してしまって更にうつ病が悪くなりがちです。
これに加えて、ポジティブなイベントでうつ病になった場合、周りからすると



おっ、頑張ってるね〜。もうすぐお子さん産まれるもんなあ
みたいな感じになって、本人が無理していることに気づかれないことが本当に多いんですよね。
では、調子を崩してうつ病になった方はどのような症状になるのでしょうか。
うつ病の症状はどんなもの?
うつ病と一言で言っても、その症状は「気分が落ち込む」だけではないということは前回の記事でお話ししました。
世界保健機関(WHO)の診断基準であるICD-10では、以下のような症状があげられています。
◆ 主な症状
- 抑うつ気分(気分が落ち込む・沈む)
- 興味や喜びの喪失(好きだったことにも無関心になる)
- 疲れやすさ、エネルギーの低下
◆ そのほかの一般的な症状
- 集中力や注意力の低下
- 自信の喪失、自己評価の低下
- 自責感や罪悪感(必要以上に自分を責める)
- 将来に対する希望のなさ、悲観的な見通し
- 自殺念慮や自傷行為の訴え(死にたいと思うこと、またその行動を起こすこと)
- 睡眠障害(寝つけない・早朝に目覚めるなど)
- 食欲の変化(食欲不振、または過食)
ICD-10では、これらの症状がどれだけ当てはまるかによって、うつ病の重症度が変わるとされています。
- 軽症うつ病:主症状のうち2つ+付随症状2つ程度
- 中等度うつ病:主症状3つ+付随症状3~4つ程度
- 重症うつ病:ほとんどすべての症状が見られる、または日常生活が著しく障害されている
精神科ではこうした診断基準をもとに診断・治療を行っていますが、皆さんがこれを覚える必要は当然ありません。
ですが中等度以上のうつ病では、本人が自分の不調に気づけなくなることがあるので、周りの人が気付いて、治療に繋げられるようにどんな雰囲気なのかイメージを持ってもらえたらなと思います。
軽症のうつ病の場合


軽症のイメージはだいたいこのイラストみたいな雰囲気です。
軽症の段階では、「最近ちょっと落ち込みやすいな」「やる気が出ないな」「最近寝ても疲れ取れないな〜、てか眠りが浅い気がする」と本人がなんとなく不調を自覚していることが多いですね。
周りから見ると「なんかあの人、最近ため息多いし疲れてるよね」みたいな印象を受けると思います。でも「まあ、そんなこともあるよね」という感じで本人も含めてそこまで違和感は感じていないと思います。
この段階で精神科を受診する人はほとんどいないです。あるとしたら精々内科を受診するくらいですかね。
ただ、このような状態の人を見かけたら「少し休んだら?」とか「何かあったら相談してね」って声掛けすることはしてあげて欲しいなと思います。



うつ病になる人って自分からきついって言い出せない人って
言ってたじゃん。
声かけに意味あるの?



それでも声をかけてあげた方がよいと思います。
何かあった時に相談しやすい場所だよと伝えてあげることは、
その後たとえうつ病になったとしても、復職のしやすさ等に
大きく関わってきます。
自分のことを心配してくれる人がいるということはそれだけで
希望であり、治療であると思います
中等度のうつ病の場合


中等度のうつ病はこのような雰囲気になります。
流石に職場で膝を抱えることはないですが、中等度になってくると、周りの多くの人がおかしいと気づきます。
一方で本人はうつ病で頭がかなり働かなくなっているので、自分のパフォーマンスが落ちているとは思っているものの、うつ病とは思っておらず、自分のミスのせいで人に迷惑をかけてしまっていると感じている方が多いです。
自己評価が大きく低下しているのも相まって、「努力が足りない。もっと頑張らなきゃ」という焦りと不安に支配されて、更に無理するという悪循環に入り始めます。また「自分なんか死んだ方が良いのでは」という自殺念慮という考えが出てくることもあります。
ただ周りからすると、明らかに反応が遅いし、ミスも増えている、偶に突然泣き出すという姿をみることもあるので、多くの人が違和感に気づき始めます。
この段階でうつ病の治療ができるかどうかがかなり大事です!!
ご家族の場合はすぐに本人を連れて精神科クリニックを受診してください。職場の方が気付いた場合は、すぐに職場の産業医か上司に相談し、精神科の受診をするように促してください。
できれば家族か同僚・上司の方が一緒に受診するようにしてください。なぜなら本人は自分の症状を説明するのも難しい可能性があります。また本人に声掛けするだけだと受診しない可能性や、受診したとしても「いや、大丈夫なんで」と治療を受け入れずに病状が更に悪くなる可能性があるという懸念もあります。
このレベルになると休職はしてもらった方が良いと思います。場合によっては入院も検討されます。
重度のうつ病の場合


重度の方はこのような雰囲気です。常に不安と自責の念が止まらずに、「死にたい」という思いに頭の中が支配されます。この状態になると、出勤できずに、無断欠勤が続いている状態になります。家族がどうにか病院に連れてくるというケースが多いです。
この段階になると、外来ではほとんど話はできないか、「はい」か「いいえ」くらいしか話せない状態の方が多いです。治療は入院一択です。これを外来でみるということはほぼ100%と言っていいほどありません。
ところで、少し話を戻しますが、この状態になると職場への出勤はできない状態だとお伝えしました。つまり職場の方が病院に連れてくるということはほとんどありません。



ちょっとまって、家族の方がいればいいかもしれないけど、
一人暮らしの人の場合はどうなるの?



そう、そこが最も大事なポイントです。
私もそうですが、一人暮らしをしている方も多いはずです。最も恐ろしいのは、一人では精神科の受診に行かずに、うつ病のせいで自殺をしてしまうことです。
数日間連絡がつかずに職場の方がご自宅に向かうとすでに…というケースも実際にあります。これは決して珍しいことではありません。
だからこそ、重症化する前に、中等度のうつ病の段階で受診に繋げることが本当に大切です。
まとめ
今回は、うつ病の症状や診断の基準、重症度の考え方、そしてうつの怖さについてお話ししました。
「ちょっとおかしいかも」と思ったときは、ぜひ周りの方に、そして僕ら精神科医に相談してみてください。
周りの方で、明らかに普段と比べてきつそうな方が居れば、その人のお話を聞いてみて、今回の内容に当てはまりそうであれば、精神科の受診や産業医の先生へのご相談を勧めてあげてください。
今回は少し重いお話もさせていただきましたが、とても大事なことでしたのでお伝えさせていただきました。読んでくださりありがとうございました。
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