統合失調症の「急性期」は大火事のようなもの〜焼け野原になる前に

こんにちは、たつみです。

今回は、統合失調症の中でも「急性期」と呼ばれる時期についてお話しします。
この時期は、いわば「病気が一番暴れているタイミング」です。

人によっては「爆発した」「火がついた」「大火事になった」と表現されることもあります。
冗談ではなく、本当に危険な状態です。

前回の記事では「早めに気づいて声をかけてあげよう」とお伝えしましたが、
急性期は異なります。

どのような危険があって、どのように対応したらよいかについてお話しします。

目次

現実と非現実の境があいまいになる

「統合失調症の急性期ってどんな状態か?」というと
「世界のすべてが敵にみえて、自分だけが正気を保っている状態」というような状態かなと思います。

もちろんこれは、本当に激しい状態のときですけどね。

急性期は激しい陽性症状に苦しむ

統合失調症の急性期はほとんど陽性症状が主体です。

陽性症状、すなわち激しい幻聴と激しい被害妄想です。

たとえば、
・どこからか自分を笑う声が聞こえる
・テレビのアナウンサーが自分の悪口を言っている
・隣人に監視されている、攻撃されている気がする
こうした幻聴や妄想が続くのが特徴です。

これは症状が重くなればなるほど、幻聴はより具体的に聞こえ、妄想は確信度を増していきます。

最終的には、

うるさい、黙れ。何ももう言わないでくれ。

と激しい幻聴(悪口)に頭を抱えたり。

外国からスパイが来て隣の家に住んでいる。
僕の頭から情報を盗んで戦争の火種にするんだ‼️

と、普段であれば考えるはずもない妄想に頭が支配されます。

これらは「気のせい」ではなく、本人にとってはまぎれもない現実
見えない相手からの悪口を毎日聞かされる生活や、
周囲の人間が全て敵で攻撃を受けている状況で日々を過ごしていれば、
誰だって追い詰められます。

自分や他人を傷つける危険も

こうした幻聴や妄想が続くと、行動にも変化が出ます。
「攻撃される」と信じ切っているので、
防衛のために行動に移ることがあります。

こうなったら、やられる前にやってやる‼️
俺がやらなければいけないんだ‼️

この結果として時折ニュースで見られるような痛ましい事件が起こることがあります。
勿論、ニュース沙汰にならないだけでこのような事例は精神科病院ではよくあります。

あるいは、
「死ね」という命令的な幻聴に苦しみ、
本当に自殺してしまうこともあります。

ここで、勘違いしてほしくないのは、「本人は悪気がない」ということです。

本人は至って真面目で正しいこと、しなければならないことだと思ってその行動をしています。
これが、統合失調症の恐ろしさです。

家族ができること・してはいけないこと

前回の記事で触れた「前兆期」では、

たつみ

前兆の段階で早めに気がついて治療につなげましょう。
優しく声をかけてください。

というような周囲の方からの声掛けや支えの重要性をお伝えしましたが、

統合失調症の急性期の時は、少し距離感を保った方が良いです。

この段階では、「本人にとって誰が信じられるか」がぐちゃぐちゃになっています。
たとえ家族や友人でも、「敵だ」と思い込んでしまうこともあります。

なのでこの状態のときはそこまで声をかけずに適度な距離感を保つ。
本人の家族等限られた人だけが関わるようにした方が良いと思います。

本人の妄想は否定しないようにしましょう

妄想に対して絶対にしてはいけないこと、
それは「妄想を安易に否定すること」です。

外国からスパイが来て隣の家に住んでいる。
僕の頭から情報を盗んで戦争の火種にするんだ‼️

そんなわけないよ。大丈夫だよ。

これは絶対に駄目です。
まず妄想を否定しても、本人は納得しません。当然です。本人にとっては事実なのですから。

「そんなことあるはずないでしょ」と否定すると、
「やっぱり自分を騙そうとしている」と受け取られてしまうことがあります。

ですので声掛けとしては

そうなんだ。
それは大変だよね。

妄想を否定も肯定もしない、「そのような状況なら大変だよね」というふうに流すことです。

つまり、前兆期では“声をかけて安心させて医療につなげる”、急性期では“下手に刺激しない”
この切り替えが大切です。

入院は“最初の安全確保”

この段階では、ほとんどの場合、入院が必要です。
やむを得ない状況を除いて、入院を勧めない医師はいないでしょう。

この時本人は判断能力が落ちているので、ご家族の同意による医療保護入院になることがほとんどです。

この点に関してご家族にはお願いがあります。

統合失調症の入院のハードルはかなり低くしてください‼️

うーんでも精神科病院に入院させるのは、
それに無理やり入院でしょ?
幻聴とかはひどいけど、人を傷つけているわけじゃないから
今日は入院は大丈夫です。

こうやって様子見をされるケースは結構あります。
しかし、自分はこれはお勧めしません。

理由としては以下の3つです。

  • 安全を保つため
  • 早期治療が回復を早め後遺症を減らす
  • 爆発してからでは、もう連れていけない

安全を保つため

幻聴とかはひどいけど、人を傷つけているわけじゃない
これは、あくまで今この時点まで人を傷つけていない」ということでしかありません

今後人を傷つけないということは何も保障されていないのです。

統合失調症の方が行動を起こす時、それはもう一瞬です。
その前兆をとらえることは殆ど出来ません。

そしてその時の行動力はまさに爆発的です。

爆発したときには、家族だけの問題では済まないこともあります。
他人が巻き込まれることもあるし、本人の自殺リスクも高まります。

そうなる前に入院をお勧めします。

早期治療が回復を早め後遺症を軽くする

早く介入すればするほど、症状は早めに改善します。
また治療のために必要な薬の量だって減ります。

激しい急性期の症状を抑えることは、その後の回復期の後遺症を抑えます。

そのためにも早めに治療介入をしたいのです。

爆発してからでは、もう連れていけない

これが一番大事です。

本人が暴れた時、家族だけで病院に連れてこれますか?

え、病院が迎えに来てくれないの?

たつみ

無理です
法律上出来ません

じゃあ、救急車は?

たつみ

制度上は出来ないことはないのですが、
基本的に安全性が担保されない場合
救急隊は対応しないことがほとんどです。

警察は?

たつみ

警察は連れてくることがありますね。
ただ警察が出動しているということは、
既に何かしらの事件を起こした通報された)ということです。

じゃあまだ事件も起こしてなかったら?

たつみ

ご家族が頑張って連れて来るしか有りません

私達だって怖いのよ
力も弱いし

たつみ

と言われましても⋯

まあ、これはさすがに極端な例ですけどね。

症状が悪くなってから本人を連れてくるというのは至難の業なんですよ。

いざとなったら病院が迎えに来てくれる」と勘違いされることもあるのですが、
基本的に病院はそんな事出来ません

警察もなにかが起こらないと連れてくることは出来ません。

入院を断ること自体を責めるつもりは有りませんが、
入院させないことも一つのリスクであることは覚えておいていただきたいと思います。

入院後の治療の流れ

入院中は薬物療法を中心に治療を行います。
幻聴や妄想を抑える薬を使いながら、
安全な環境でゆっくりと現実感を取り戻していきます。

それが落ち着いたら退院して、以降は外来で経過を見ていきます。

(※入院の具体的な流れや治療内容については、次回の記事で詳しくお話しします)

患者さんに悪意はない

ここまで読んで、「統合失調症は怖い病気だ」と思われた方もいるかもしれません。
実際それはそうなんですが、勘違いしていただきたくないのですが

怖いのは病気であって、統合失調症の患者さんではない

綺麗事か?
どうせ精神科医の立場からそう言ってんだろ

とみなさんが思われるのは本当によく分かりますし、
別にそれを否定するつもりもない、というか否定する材料がないのですが、

接してみたらわかるのですが、

統合失調症の患者さんの行動には基本的に悪意は無いんです。

病気のせいで思考が歪められた結果、悪意なく、その行動を取っているに過ぎないんですよ。

だからこそ早めに治療をして、その状態を脱してほしいと思っています。

おわりに

統合失調症の急性期のお話をしました。

統合失調症の急性期は、言葉で説明してもなかなか伝わらないほど激しい時期ですので
イメージが伝わればと思い、少し踏み込んだ内容を書きました。
少しでも統合失調症の雰囲気や患者さんの辛さ、治療の重要性が伝われば良いかなと思います。

ではまた。

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